おいしい卵の話

最近は消費者が困惑するほど多くのブランド卵(?)がスーパーや直売所、あるいはインターネット等の通販で売られています。
品質の良いものを適正な価格で販売しているメーカーや生産者が圧倒的に多いとは思いますが、中にはもっともらしい謳い文句でごく標準的な品質のものが高価格で売られているケースも少なくないようです。
平飼いで飼育しているから自然卵。海草を与えているから***卵。雌鶏と雄鶏を一緒に飼育しているから有精卵。赤の色素を反映するものを飼料に混ぜて黄身の色を濃くしただけの「こだわり卵」。直販所等では産んだままの状態で販売する無洗卵もあります。
しかしいったいどれが本当に良い卵なのか、また価格は適正なのか、判断が難しいのではないでしょうか。
販売価格と原価の差が小さいため、あの手この手で付加価値を付けて利幅を上げたい気持ちは理解できますが、詳しいことは判らない消費者にとっては大差の無い価値の卵を高く買うことになり大変をお気の毒な話です。

 

そもそも何をもって卵の良し悪しは決まるのか・・

消費者にとって良い卵とは
①新鮮であること・・・・・・・ 当たり前過ぎる話ではありますが・・。
どこのメーカーのどんな銘柄であれ、これに関しては出荷段階では間違いなく新鮮だと思いますが、消費者の手に渡ってからの保存方法や経過日数が鮮度に影響してきます。
ラベルに記載されている保存法や賞味期限を守っていれば新鮮な状態で食せます。
同じ鶏が産んだものを単純に比較した場合、新鮮な卵は底の浅い皿に割って見るとわかります。全体に盛り上がり、白身が二層になっているのがはっきりとわかります。ただしケージ飼いの一般量産鶏の卵では、新鮮であっても盛り上がりは少ないようです。
②健康な鶏が産んだ卵であること・・・・・・・ 病気知らずの元気な鶏は相応な環境で飼育されています。
鶏も生き物ですのでさまざまな病気にかかる可能性はあります。成長に合わせて必要に応じたワクチンの投与等は欠かせませんが、基本的に大事なことは病気の治療ではなく予防です。日本の養鶏ではその予防を薬剤に頼り過ぎているように思われます。
野鳥やネズミが自由に出入りできるような鶏舎や衛生管理がずさんな鶏舎では病気の発生率は当然高くなります。野鳥やネズミが侵入できない構造にし、衛生管理を徹底することが一番の予防となります。
鶏は食したものの成分や色素が卵にも影響します。もし不健康で薬漬けにされながらどうにか生きているような鶏が産んだ卵だとしたら・・・考えただけでゾッとします。
鶏にとって必要な栄養成分をバランス良く与えられ、衛生管理が行き届き、自由に運動できる環境で飼育された健康な鶏が産んだ卵が理想と言えます。
③実際に食べておいしいこと・・・・・・・ 宣伝に惑わされずに自分の舌で答を出そう。
例えば、最小限の飼料でたくさん卵を産むように改良された鶏と、十分なカロリーを与えても産卵率の低い地鶏の卵では当然含有成分や食味に違いがあります。①②のほかにどんな種類の鶏が産んだ卵なのかも重要なポイントとなります。

結論を言いますと、同じ種類の鶏が産んだ卵であれば、清潔でのびのびと自由に運動できる環境で必要な栄養素を十分与えられ飼育されている、健康で活力溢れた鶏が産んだ卵が一番安心でおいしい卵と言えます。まずはこの基本が重要であり、その上で鶏の種類による卵の含有成分や食味の違いにこだわるべきでしょう。
同じ条件で飼育しても産む鶏の種類によってそれは異なります。極端に言えば、鶏と鶉(うずら)を同じ配合飼料で育てた場合でも卵の味は異なるのと同じです。もちろん種類が違うと言っても同じ鶏ですからそれ程極端な違いはありませんが。

 

無精卵と有精卵の違いについて

スーパー等で一般に売られている卵の多くは温めてもヒヨコに孵ることはない無精卵ですが、たまに有精卵として売られているものがあります。
有精卵は雄と雌を一緒に飼育している鶏が産んだものなので、新鮮で低温保存されていないものであれば、温めれば孵る可能性はあります。
ではどう違うかと言いますと、はっきり言って消費する上では味も栄養価もまったく違いはありません。これは信頼できる専門機関によって成分分析され実証されている事実です。また有精卵だから新鮮で長持ちするということもありません。
ただし、メスだけで卵を産める鶏にとっても、やはり広いスペースで雌と雄が接触できる環境が自然な姿だと思いますし、生理的にも健康な状態を維持できると思います。そういった意味では本当の「自然卵」と言えると思います。
しかし、それ以前の話ですが、有精卵として売られているものであっても、実際には孵化しないものがほとんどです。
これは食用として流通するものであって繁殖が目的ではないと言われればそれまでですが、そもそも最初から受精していないものや、受精してもヒヨコに育つだけの栄養成分が足りないないため途中で成長が止まってしまうものが多いのです。
それは繁殖が目的の場合と、卵をたくさん産ませてそれを売るのが目的の場合では与える飼料の内容や飼育法を変えているため、ヒヨコに育つだけの栄養成分が含まれていない卵ということです。
とはいえ中には繁殖用と同じ条件で作出され、高い確率でヒヨコに孵る本物の有精卵を販売している業者(直売所等)もありますので、有精卵にこだわるならそのような信頼できる生産者の銘柄を選ぶしかありません。それこそが本当に「生きた卵」と言えます。
実際に素人が孵化させることができるかどうかは別としても、有精卵(受精している卵)かどうかを見分ける方法はあります。
残念ながら外観上では見分けることはできませんが、生卵を割ってみると胚と呼ばれる2.5~3.0ミリ程度の小さな白い斑点があり、有精卵の場合はその部分がやや大きく輪郭がぼけたような感じになっています。

 

飼料と卵の関係について

鶏の主食はとうもろこしやマイロ等の穀物を主体とする配合飼料が一般的ですが、この配合飼料には鶏が必要とする栄養素がバランス良く配合されています。
適切な飼料で飼育した鶏の卵の黄身は本来の黄色(レモン色からせいぜい淡いオレンジ色の間)となります。
昔よく見られた農家等の庭先養鶏では、残飯に野菜屑を刻んだものを加えてそれに米ぬかをまぶしたものを与え、あとは自然の中にある草や草の種、虫、土などを自由についばんで必要な栄養素を採取するような形で育てているのが一般的でした。その場合もやはり卵の黄身は黄色です。
つまり必要な栄養素を十分バランス良く採取できていれば、卵の黄身は多少の濃淡はあっても本来の黄色となります。それは鶏に限らずほとんどの鳥類に言えます。カラスも鳩も、小魚を主食とする水鳥や肉食の猛禽類であっても大体は黄色か淡いオレンジ色です。
ところが最近は黄身の色が濃いオレンジ色や赤に近いような色の鶏卵が増え、いかにも栄養価が高いイメージで売られています。
実は人工的に卵の黄身の色を変えるのはそれほど難しいことではなく、赤はもちろん黒い黄身の卵を作ることもできます。
赤い黄身の色にしたい場合には赤の色素の強いパプリカや唐辛子等の乾燥粉末を飼料に混ぜて与え続けると黄身は赤くなります。
鶏が好んで食するものではないため単品で与えてもあまり食べません。そのため粉にして適量を飼料に混ぜて与えます。そうすることによって黄身が鮮やかなオレンジ色の高級(?)な卵ができるわけです。
本来鶏は雑食性で結構何でも食べます。しかも人間の飼育下にあっては好き嫌いなど言えません。
こんな話を聞いたことがあります。知人の魚屋さんから鮮度が落ちて売り物にならなくなった魚や内臓・アラをタダでいただけるため、それを乾燥させて魚粉にして与え続けたら、卵は黄土色になり生臭い味になったそうです。
またある方が放し飼いの「自然卵」のキャッチフレーズに釣られて直売所から買った卵はなんと、黄身が黄緑色だったそうです。
その養鶏場では柵で囲ったスペースで放し飼いにし、その中の雑草を食べ尽くしたら別なスペースに移動させることを繰り返していたそうです。
柵で囲った限られたスペースの土地で、雑草しか無ければそれを食べるしかありません。草が豊富な時期はろくに飼料を与えていなかったことが容易に想像できます。
魚粉も草も適量であればぜひ与えたい飼料ですが、エサの大半をそれで賄えば当然栄養が偏ってしまい、質の良い卵は産めません。

 

卵に関する嘘や誤解

①殻が白い卵より茶色(赤玉)のほうがおいしい?
市販されている卵の色は白が圧倒的に多いため、流通の少ない赤玉のほうが高級なイメージがしますが、鶏の種類によって殻の色が異なるだけで、殻の色で味の良し悪しは決まりません。
ちなみに卵殻の色の色素は血液の成分からなり、もともと白い殻の表面にコーティングされたように色が付きます。割ってみると赤玉でも殻の内側は白くなっているのがわかります。
たまに表面を覆うはずの色素が卵の中に取り込まれ、血が斑点状に混じったようなものがありますが、これは殻の色が濃いほど現れやすい現象のようです。
②無洗卵は洗卵より良い卵なのか・・・
産まれたままの状態の卵は表面がクラチラという成分で覆われていて、この層が内部への雑菌の進入を防いでいます。
水で洗浄した卵(洗卵)と無洗卵を常温で放置比較した場合、10日程の間はあまり差がありませんが、それ以降は日数が経過するほど洗卵のほうが細菌検出率は高くなります。よって無洗卵のほうが保存性は良いと言えます。
しかし、冷蔵庫が普及していなかった時代ならともかく、卵は冷蔵保存するのが常識の現在においてはあまりこだわることはないと思います。
それよりも消費者にとっては表面に付着したままの雑菌や汚れのほうが気になります。
現在一般に売られている卵のほとんどは単なる水洗いではなく、低濃度の次亜塩素酸ナトリウム溶液(野菜や果物の洗浄等にも用いられるもの)等で殺菌洗浄され保存性も高まっています。そしてそのまま鍋に入れてゆで卵にできるような清潔な状態で販売されています。
無洗卵は生産者側にとってはその分手間や経費を省けるメリットがありますが、その分価格も安くなるのならともかく、消費者にとってのメリットは特にありません。

③卵はコレステロールが多いので1日に1個にとどめるべき?
この俗説は1900年代始めにロシアで行われた研究により、ウサギに卵を与えた結果血中コレステロールが急上昇したという結果が世界中に広まったことが原因といわれています。しかしウサギは草食動物でありコレステロールを代謝する機能がなく、人間には当てはまらないことも明らかにされてきましたが、まだ誤解が多いようです。
確かに卵はコレステロールの高い食品ではありますが、 コレステロールには動脈硬化を引き起こす原因となる「悪玉コレステロール」と言われるLDLコレステロールと、その悪玉コレステロールを引き抜いて肝臓まで運ぶ働きをするHDL「善玉コレステロール」があり、卵は両方バランスよく含まれ、卵を食べることによって直接動脈硬化や心筋梗塞のリスクを高めるものではないことが明らかにされています。
むしろ卵には蛋白質、カルシウム、鉄分、ビタミンA、B、アミノ酸等々さまざまな栄養素を含んでおり、積極的に摂りたい食品と言えます。
人それぞれ食生活や体質等個人差があり、卵を一日に何個食べたから悪いとか良いとかいう問題ではないのです。
ただし何によらず食べ過ぎ・偏食は体に良くないのも事実ですから、そこのところは気を付けましょう。

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